ハンナ・アーレント

 家族と映画を見ました。昨年の12月にKBCシネマで上映した映画で、もうやっていないかと思っていたら、まだ上映中とのことで早速、車で都市高速を飛ばして行ってきました。今週一杯はやっているようです。12月は1日に1回でしたが、1月は2回になっていて、じわじわと観客の数が増えているよう。

 

 いい映画でした。ドイツ系ユダヤ人哲学、政治学者の女性の半生記です。ユダヤ人で強制収容所の経験がありながら、ナチスユダヤ人虐殺の最高司令官、アイヒマンの裁判傍聴記で、アイヒマンは悪魔でも何でもない普通の役人だと、普通の人間が思考停止になって残虐行為を、つまり誰でもが悪に加担する、また、ユダヤ人虐殺に協力したユダヤ人がいたという事実を同時に公表したことで、一大センセーションを起こしたというストーリーです。

 

 アイヒマンはただの、命令に従った官僚にすぎない、あくまでも何でもない、陳腐なほど普通の人間だと感じたままを、自分の哲学思想に忠実に発表し、全政界のユダヤ人、またホロコーストの摘発運動に参加している著名な人、また人々を敵に回すことになっても自分の姿勢を貫きました。自分が愛するのは国や民族ではなく、友人たちだと、それが唯一の愛情だと絶縁された家族同様のイスラエルのシオニストの元闘士に伝える場面は、とても印象的でした。

 

 この映画の女性監督、マルガレーテ・フォン・トロッタもまた、すごい。映画を企画して10年の歳月が必要だったとのこと。人種、宗教、政治、経済を超え、人間が考えることによって存在するという、忘れていた希望を与えてくれたと、ある映画評論家は書いていた。